ベイビーフェイスとジョン・Bが約30年以上ぶりの名曲を披露!『Cadillac Chronicles』で証明された90年代R&Bのタイムレスな輝き
90年代のR&Bシーンをリアルタイムで体感した者にとって、あの時代が放っていた特異な輝きは忘れられないものだ。メロディはどこまでも豊かで、アーティストたちは自身の感情を自由に紡いでいた。そんな黄金期の空気を2020年代の今、再び鮮烈に蘇らせる事件が起きた。
伝説的なシンガー、ソングライターでありプロデューサーのベイビーフェイス(Babyface)が、自身が手がけた最高の愛弟子の一人であるジョン・B(Jon B.)とステージの上で再会を果たしたのだ。
目次
時を超えた名曲”Someone to Love”のサプライズパフォーマンス
ブライアン・フリーマン(Brian Freeman)がホストを務める人気パフォーマンス&インタビューシリーズ『The Cadillac Chronicles』の最新回は、一人の男の偉大なキャリアを祝福する特別なステージとなった。
その男こそ、ベイビーフェイスだ。この日のステージは、ケニー・G(Kenny G)やザ・ウィスパーズ(The Whispers)といった豪華なゲスト陣が花を添え、さらにはベイビーフェイスがかつて在籍した伝説的グループ、ザ・ディール(The Deele)のメンバーとも再会して”Two Occasions”を披露するという、まさにR&Bの歴史絵巻のような構成だった。
しかし、その夜の最も大きなハイライトの一つは、ジョン・Bが彼の長年のメンター(恩師)であるベイビーフェイスの元に駆けつけ、ステージを共にした瞬間に訪れた。二人が披露したのは、1995年の特大ヒットシングル”Someone to Love”だ。
このサプライズパフォーマンスは、90年代R&Bファンを熱狂させた珠玉のコラボレーションが、30年以上のアニバーサリーを経て、今の新しい世代のリスナーへと完璧に引き継がれた瞬間でもあった。
Yab-Yum Recordsから始まった師弟の絆とヒットの軌跡
この二人の共演が持つ意味を理解するには、1990年代半ばまで時計の針を戻す必要がある。当時、ベイビーフェイスと当時の妻であったトレイシー・エドモンズ(Tracy Edmonds)は、自身のレーベル「Yab-Yum Records」を立ち上げたばかりだった。その記念すべき最初の所属アーティスト(最初の契約アーティスト)として白羽の矢が立ったのが、若き才能あふれるジョン・Bだった。
ジョン・Bがデビューアルバム『Bonafide』の制作を締めくくろうとしていたとき、ベイビーフェイスが文字通りステップインし、共同執筆(コライト)とヴォーカル参加を買って出た楽曲が”Someone to Love”だった。
このシングルは、ジョン・Bにとって人生を変えるブレイクアウトヒットとなる。米ビルボードの総合シングルチャートHot 100で10位、R&BチャートでTop 7を記録し、RIAAゴールド認定も受けた。さらにグラミー賞の「Best Pop Collaboration with Vocals」にもノミネートされ、90年代を代表する決定的なスロージャムとして歴史に刻まれた。ベイビーフェイスのプロデュース力とジョン・Bの甘美な歌声のケミストリーはそれだけに留まらず、ベイビーフェイスはジョン・Bのソロヒット曲”Pretty Girl”の作詞・作曲・プロデュースも担当。その後も二人は、トニ・ブラクストン(Toni Braxton)をはじめとする他のアーティストへの楽曲提供など、数々のスタジオワークで共作を重ねていくことになる。
レジェンドが語る黄金期の真実と「トレンドに流されない」音楽哲学
トレンドではなく「良い音楽」を追求したリッチな時代
インタビューの中で、ベイビーフェイスは彼らが数々のクラシックを生み出していた90年代当時の音楽シーンについて振り返っている。当時のシーンがこれほどまでに豊かであった理由は、アーティストたちが目先のトレンドを追いかけるのではなく、ただ純粋に「素晴らしい楽曲」を追い求めていたからだと彼は分析する。
ベイビーフェイスは当時の空気感を次のように回想している。
アーティストが己の感情の赴くままに、自由にペンを走らせることが許されていた環境。だからこそ、当時の音楽は今も人々の心を揺さぶり続けるのだ。彼は一言、こう付け加えた。
「その時代のR&Bは、とにかく中身が濃かったんだよ」
さらに、ベイビーフェイスが指摘するのは、当時のR&Bが特定のコミュニティやオーディエンスだけに閉じこもっていなかったという点だ。
R&Bでありながらポップチャートでも支持を集めていた。それが90年代サウンドの底力だったのだ。驚くべきことに、これほどの黄金時代を築き上げていた当事者たちは、最初から壮大な計算をしていたわけではないという。彼はこう言って笑う。
「とにかく良い曲を作ることだけに必死で、それ以外のことは何も考えていなかったよ」
ただ「良い音楽を作ろう」としていた。そのピュアな衝動こそが、数々のタイムレスな名曲を生み出した原動力だったのである。
過去に囚われない姿勢:Babyface Rayとの世代を超えたコラボレーション
数え切れないほどのヒットを放ち、音楽業界の頂点に数十年もの間君臨し続けているベイビーフェイスだが、彼の真の凄みは「過去の栄光にすがらない」その姿勢にある。
常に第一線で現役であり続け、現代のシーンでも求められる存在であり続けるための秘訣について、彼はこう語った。
「自分のやり方だけが正解だと思わないこと。すべての人、すべての音楽に耳を傾け、たとえそれが自分の好みに合わないものであっても理解しようと努めること。この柔軟でオープンなマインドセットこそが、彼を「生ける伝説」たらしめている理由だ。」
この哲学を証明するように、ベイビーフェイスは近年、デトロイトのヒップホップシーンを牽引するラッパー、ベイビーフェイス・レイ(Babyface Ray)とのスタジオセッションを行っている。世代もジャンルも異なる若き才能とのコラボレーションについて、彼はこう振り返っている。
「彼とは一緒に仕事をしたが、本当に最高に楽しい時間だったよ」
ベイビーフェイスの名前を冠した新世代のラッパーと、オリジナルのレジェンドが交わるスタジオ。そこには過去への固執など微塵もなく、純粋に音楽を楽しむ現場の熱量だけがあった。
現代の音楽ビジネスを生き抜くアーティストたちへの金言
ゲートキーパーなきSNS時代におけるチャンスと変わらない本質
ベイビーフェイスの教えは、現在の音楽ビジネスという荒波を航海しているこれからの若いアーティストたちへ向けたアドバイスにも及んだ。
彼が活躍した90年代は、レコード会社の幹部やラジオの編成担当者といった、いわゆる「ゲートキーパー(門番)」が絶対的な権力を持っていた時代だった。彼らに認められなければ、アーティストは世に出ることすら叶わなかった。しかし、ソーシャルメディアの台頭によってその構造は完全に崩壊したとベイビーフェイスは語る。
「もう障壁となる存在はいないんだよ。業界の強力な後押しがなくとも、アーティストが自力でブレイクするチャンスは、今の方がずっと多いんだ」
大手レーベルや業界の権力者の手助けがなかったとしても、アーティストが自らの力で世の中にブレイクアウトするチャンスは、今の方が遥かに大きい。SNSの普及によって、以前よりも自力で世に出るチャンスは広がった。しかし、どれだけテクノロジーが進化し、プラットフォームが変わろうとも、音楽ビジネスにおいて絶対に変わらない「コア」があるとレジェンドは強調する。最後に彼が残したこの言葉は、すべての音楽クリエイターが肝に銘じるべき真理だ。
「結局のところ、すべては『最高の曲』があるかどうかに尽きる。人の心を捉えて離さない、ソウルを揺さぶるような曲が作れるかどうかってことさ」
バズやアルゴリズムをハックすることではない。すべては「人の心を動かす、キャッチーで素晴らしい楽曲」があるかどうかに帰結する。ベイビーフェイスのこの言葉は、流行り廃りの激しい現代の音楽シーンに対する、最もシンプルで最も強力な答えである。
まとめ:私たちが今こそ90年代のソウルに立ち返るべき理由
ベイビーフェイスとジョン・Bが『Cadillac Chronicles』で見せた鮮烈なパフォーマンス、そしてベイビーフェイスが語った数々の言葉は、現代の音楽シーンが忘れかけている「楽曲そのものが持つ純粋な力」を思い出させてくれる。
アーティストが自由に感情を表現し、ただひたすらに「良い音楽」を目指した90年代。そのスピリットは、今を生きるアーティストたちにとっても、激しい変化を生き抜くための最大の武器になるはずだ。まずは、彼らが再び命を吹き込んだ”Someone to Love”をもう一度ストリーミングや動画でチェックし、そのタイムレスなメロディに身を委ねてみてほしい。本物のクオリティが何たるかを、耳と心で理解できるはずだ。
Review
今回の『The Cadillac Chronicles』におけるベイビーフェイスとジョン・Bの再会劇は、単なるノスタルジーの枠を完全に超えている。
俺たちリスナーが90年代R&Bを今なお神聖視してしまうのは、そこに「計算のないソウル」が宿っていたからだ。ベイビーフェイスが語った「ただ良い音楽を作ろうとしていた」という言葉には、シーンの構造が複雑化しすぎた現代に対する大いなるヒントが隠されている。TikTokでのバズを意識した15秒のための楽曲作りや、ストリーミングの再生数を稼ぐための短すぎる尺のトラックが溢れる昨今、彼の「最終的には人の心を動かす素晴らしい楽曲に帰結する」という言葉は、小手先のテクニックに走りがちなクリエイターたちへの愛のあるビンタのようにも聴こえる。
また、ジョン・Bという白人R&Bシンガーの先駆者をYab-Yum Recordsの第一号としてフックアップしたベイビーフェイスの先見の明、そして現在進行形でベイビーフェイス・レイのようなストリートのラッパーともフラットに、かつ「fun as hell」に交わる柔軟性には脱帽するしかない。過去の栄光の椅子にふんぞり返る老害にならず、常に「今の音」を理解しようとするそのオープンマインドがあるからこそ、彼の作るメロディはいつの時代もリッチで、人々の心を掴んで離さないのだろう。
トレンドは消費されるがソウルは残り続ける。その冷徹な音楽史の事実を、これ以上ないエレガントな形で証明してくれたレジェンドに、改めて最大の敬意を表したい。
引用元: Complex: Babyface and Jon B. Reunite to Revive ’90s R&B on ‘Cadillac Chronicles’