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【コラム】ロサンゼルス「グラフィティ・タワー」の再生とストリートカルチャーの転換点:2028年五輪へ向けた12億ドルの再始動

ロサンゼルスの中心部。クリプト・ドットコム・アリーナの目の前に聳え立つ巨大な3棟の廃墟がある。かつて「12億ドルの贅を尽くした夢の跡」と呼ばれたオーシャンワイド・プラザ(Oceanwide Plaza)だ。現在は「グラフィティ・タワー」という名で世界中に知られている。2019年の建設中断以来、ここは都市の失敗の象徴であった。しかし、2024年初頭に起きた歴史的な「グラフィティ・ジャック」がすべてを変えた。世界中のライターたちが27フロア以上に渡って極彩色のタグを刻んだのだ。この行為は、資本主義の放置に対するストリートの咆哮であった。

そして2026年2月。この物語は劇的な転換点を迎えた。連邦破産裁判所が破産脱却合意を承認したのだ。2028年ロサンゼルス・オリンピックを控え、街は「浄化」のプロセスを加速させている。本稿では、最新の法的合意のディテールを解剖する。同時に、NCTクルーが遺した文化的レガシーと、2028年に向けた都市のうねりを描く。これは単なる不動産ニュースではない。都市の魂をめぐる、終わりのない闘争の記録である。


1. オーシャンワイド・プラザ:12億ドルの野望と突然の破綻

ロサンゼルスのダウンタウン(DTLA)において、オーシャンワイド・プラザはかつて「未来の象徴」であった。2015年に着工したこのプロジェクトは、中国の北京を拠点とする大手デベロッパー、中国泛海控股集団(China Oceanwide Holdings)によるものだ 。彼らは、クリプト・ドットコム・アリーナの向かいという一等地に、3棟の高層タワーを建設しようとした 

 

 

中国資本が描いたDTLAの「黄金時代」とその崩壊

計画の内容は、当時の不動産バブルを象徴するように極めて豪華であった。

・ タワー構成:地上49階のタワー1と、40階建てのタワー2・3の計3棟    

・ 施設内容:5つ星ホテルのパークハイアット(Park Hyatt)、504戸の高級アパート、164戸のコンドミニアム    

・ 商業エリア:16万1,000平方フィートの小売スペースと、世界最大のラッピングLED看板 。 しかし、2019年、中国政府の海外投資規制強化により資金が枯渇した 。建設は突如として中断され、巨大な鉄骨とガラスの骸骨が街に取り残された 

 

2019年の建設中断から「幽霊ビル」への転落

建設が止まってからの5年間、このビルは「価値のない巨像」として放置された。建物は未完成のまま風雨に晒され、内部の設備は徐々に劣化していった 。 以下の表に、プロジェクトの基本データと現在のステータスをまとめる。   

項目
詳細内容
プロジェクト名
オーシャンワイド・プラザ(Oceanwide Plaza)
開発元
中国泛海控股集団(China Oceanwide Holdings)
推定投資額
約12億ドル(既に11億ドル以上を投入済み)
工事中断理由
中国の投資規制による資金不足
未払いの税金
数年分にわたる固定資産税の滞納
完工に必要な追加費用
約10億ドル(推定)

この巨大な空間の放置は、ロサンゼルスの不動産市場における「失敗」の代名詞となった *

 

2024年「グラフィティ・ジャック」:27フロアのキャンバス

2024年初頭、この「幽霊ビル」は一夜にして世界的な注目を浴びることとなった。ロサンゼルスのグラフィティ・ライターたちが、組織的にビルの外壁を埋め尽くしたからだ 。彼らは管理の手薄な警備をすり抜け、3棟のタワーのほぼ全フロアにタグを刻んだ 

Oceanwide Plaza was covered in graffiti by dozens of artists. (photo by and courtesy Leonardo Manzano)

NCTクルーとDokter1:命を懸けた歴史的表現の舞台裏
この現象の立役者は、ロサンゼルスの伝説的クルー「NCT(Nightmares Come True)」であった 。彼らは1997年から活動を続けるベテラン集団である    

・ Dokter1 (DR1):クルーの主要メンバーであり、最初にタワー1の低層階にアタックした 
・ 高度な技術:数日かけて48階まで到達し、最上部の窓に巨大なタグを完成させた 
・ 参加者数:最終的には数十人、あるいは数百人のライターがこの「祭り」に加わった 
彼らにとって、このビルは「12億ドルのミドルフィンガー(中指)」であった 
。放置された高級ビルへの着色は、街の創造的なエネルギーを誇示する行為だったのである 

マイアミから受け継がれた「爆破」の論理

この大規模なジャックには、先行するインスピレーションが存在していた。2023年末、マイアミのアートバーゼル期間中に起きた20階建てビルのタグ付け事件だ 。ライターの一人であるMerchは、「マイアミが道を示した」と語っている 。 彼らはバケツのペンキ、ローラー、はしごを担いで階段を上り、命懸けで表現を続けた 。ドローン映像が拡散されると、このビルは「グラフィティ・タワー」として世界中に認知された 

 

 

都市の病か、それとも回復か:激化する社会的論争

この「アート」の出現に対し、ロサンゼルス市当局と市民の反応は真っ二つに分かれた。

ロサンゼルス市議会とLAPDの苦悩:400万ドルの清掃コスト

市議会議員のケビン・デ・レオンは、この状況を「都市の恥」と呼んだ 。市議会は、開発元に清掃を命じたが、返答はなかった 。 その結果、市は緊急予算として約400万ドル(約6億円)の投入を余儀なくされた 

 

用途 金額 目的
フェンス設置費用 110万ドル 侵入防止のための強固なバリア構築
警備および清掃費用 270万ドル LAPDの監視費用と30フロア分の消去
警察の労働時間 3,000時間以上 24時間体制の監視リソース

引用元;:
LAPDのムーア署長は「これは犯罪であり、アートではない」と断じた 。警察はこれまでに30人以上の逮捕者を出している    

「インサージェント・プランニング」としてのグラフィティ

一方で、都市計画の専門家たちは、この行為を異なる視点から捉えている。 UCLAの研究者たちは、これを「インサージェント・プランニング(反乱的都市計画)」と呼んだ    

・ 空間の再利用:放置された死文化空間に、市民が独自の意味を再付与するプロセスである 
・ 資本への抵抗:住宅危機が深刻なLAで、空虚な高級コンドミニアムへの批判としての機能 。 あるアーティストは「所有者が何もしないなら、ストリートが色を塗るだけだ」と語っている 

2026年2月の転換点:破産脱却合意の全ディテール

2026年2月3日、この物語に法的な決着がもたらされた。連邦破産裁判所が、オーシャンワイド・プラザの破産脱却合意(Bankruptcy Exit Deal)を承認したのだ 

連邦裁判所の決断:LADIと債権者団の複雑な利害関係

今回の合意は、数年に及ぶ「価値破壊的な訴訟」に終止符を打つものだ 。合意に達した主要な債権者は以下の通りである。   

  • L.A. Downtown Investment LP (LADI):筆頭貸し手。2億3,000万ドルの債権を保有    

  • Lendlease (US) Construction Inc.:建設会社。1億6,800万ドルの先取特権(メカニクス・リーン)を主張 。 裁判資料によれば、この合意は「物件の迅速な売却と完工に向けたクリティカルなステップ」である    

2億3,000万ドルの優先債権と売却へのウォーターフォール

合意により、物件は公開市場で売却される準備が整った。売却によって得られた収益は、特定の順位(ウォーターフォール)に従って債権者に分配される 。 現在、匿名のアメリカおよび海外の不動産会社2社が買収を競っている 。売却価格は4億5,000万ドルから5億ドル程度と見られており、完工にはさらに10億ドルが必要とされる 。 これは、2028年のオリンピックまでにビルを完成させるための、唯一の現実的な道筋である    

2025年「No Kings Day」:政治的混迷とタワーの象徴性

2025年から2026年にかけて、ロサンゼルスは極めて不透明な政治情勢の中にあった。2025年6月14日に開催された「No Kings Day」抗議デモは、その絶頂であった    

トランプ政権とICEの強制捜査に対する市民の抗議

2025年6月、トランプ政権はロサンゼルスでICE(移民・関税執行局)による大規模な強制捜査を開始した    

  • 逮捕者:ファッション・ディストリクトなどで45人以上の住民が拘束された    

  • 市民の反応:数万人がDTLAの街頭に繰り出し、ICEの排除と「No King(王はいらない)」を叫んだ 。 この際、オーシャンワイド・プラザのタワーは、抗議者たちの背景として圧倒的な存在感を放っていた    

都市開発の失敗が呼び込むアクティビズム

グラフィティ・タワーは、単なる「落書きビル」から「抵抗のランドマーク」へと昇華した。 「No Kings Day」の参加者たちは、この廃墟を、富裕層のための開発が失敗し、一般市民の権利が守られない現状の象徴として捉えていた 。 警察が「 unlawful assembly(違法な集会)」を宣言し、催涙ガスやゴム弾を使用した際も、タワーの極彩色の壁面がその混乱を静かに見下ろしていた    

2028年ロサンゼルス・オリンピック:浄化と再開発の影

2026年2月の破産脱却合意の背後には、強烈な「時間制限」が存在する。2028年7月のオリンピック開幕である。

「クリーンなLA」への政治的圧力とホームレス排除

ロサンゼルス市にとって、オリンピック会場(Crypto.com Arena)の目の前に落書きだらけの廃墟があることは許されない 。 オーシャンワイドの弁護士は、「完工は市と公衆にとっての最優先事項である」と裁判所に訴えた 。 現在、市当局は以下の浄化プロセスを加速させている。   

  1. グラフィティの「永久的な除去」:新しい所有者の下で外壁を完全に洗浄    

  2. ホームレスキャンプの撤去:オリンピック会場周辺の路上生活者を強制的に移動    

  3. 治安維持の強化:連邦政府と連携した大規模な警備体制の構築    

インフラ整備の遅れとジェントリフィケーションの加速

一方で、オリンピックに向けた準備は順調とは言えない。

  • 交通予算の不足:メトロのプロジェクト資金調達は目標のわずか5.2%に留まっている    

  • 経済的負担:市は2億7,000万ドル以上の予備費を確保しなければならず、市民への負担増が懸念されている 。 オーシャンワイド・プラザが高級コンドミニアムとして完工することは、DTLAの家賃をさらに押し上げるジェントリフィケーションの「最後の一押し」になると批判されている    

結論:我々は「失敗した開発」から何を学ぶべきか

2026年2月。オーシャンワイド・プラザ、すなわち「グラフィティ・タワー」は、法的な手続きによって新たな人生を歩み始めた。2028年、ここにはセレブリティが集う高級ホテルやコンドミニアムが建ち並ぶだろう。しかし、その輝かしい未来の裏側には、消去された「ストリートの記憶」が刻まれている。

グラフィティ・ライターたちが命を懸けて刻んだタグは、化学薬品によって消される運命にある 。しかし、「The Source」が指摘するように、それらが遺した「インパクト」は消えない 。 都市は、単なる資本の集積場所ではない。そこには人々の声があり、抵抗があり、表現がある。 オーシャンワイド・プラザの物語は、我々に重要な問いを投げかけている。 「都市は、誰のために開発されるべきなのか?」 2028年、ピカピカに磨き上げられたタワーが完成したとき、我々はその答えを見つけることができるだろうか。

 

https://www.latimes.com/entertainment-arts/newsletter/2024-02-10/la-oceanwide-plaza-essential-arts-arts-culture

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