Ralph Laurenが打ち出してきたのは、アメリカの伝統やスポーツ、上流階級のライフスタイルを反映したプレッピースタイルだった。カントリークラブやアイビーリーグを連想させるその服は、やがてブランドが想定していた着用シーンを越え、ニューヨークのストリートでも独自の意味を持つようになる。
高級百貨店のラックから街角のサイファー、そして巨大なスタジアムやランウェイへ。なぜストリートの若者たちは、本来自分たちの生活圏とは対極に位置していたはずのラルフ・ローレンに魅了され、熱狂し続けてきたのか。米カルチャーメディア『Complex』の記事「25 Things to Know About Ralph Lauren, Polo, and the Designer’s Legacy」で紹介された史実を基軸に、80年代ブルックリンから現代に至る40年の共犯関係を紐解く。
目次
1980年代ブルックリン:Lo Lifesによるプレッピーの再定義
Ralphie’s KidsとUSAの合流――ストリートを席巻したLo Lifes
Polo Ralph Laurenがニューヨークのストリートで存在感を高めた背景には、1980年代のブルックリンで活動していたクルー「Lo Lifes(ロー・ライフス)」の存在がある。
ストリートファッションやHIPHOPカルチャーにおけるポロの地位は、Lo Lifesなしにはあり得なかった。80年代のブルックリンで活動していたThirstin Howl III、Rack-Lo、Rudy-Loらは、Polo Ralph Laurenのプレッピーな服をニューヨークのストリートに持ち込んだ。
Lo Lifesのルーツは、クラウンハイツを拠点とする「Ralphie’s Kids」と、ブラウンズビルの「United Shoplifters Association(USA)」という2つのグループにある。1988年、両者がタイムズスクエアで出会ったことをきっかけに合流し、Lo Lifesを結成した。
彼らの活動で知られるのが「ブースティング(boosting)」だ。百貨店からPoloの衣服を盗み出し、自分たちで着用したり、近隣で販売したりしていた。ただし、メンバー全員が窃盗に関わっていたわけではない。彼らのスタイルもPolo一辺倒ではなく、複数のブランドを組み合わせた独自の着こなしに特徴があった。
カントリークラブの服がストリートに広がる
Ralph Laurenが打ち出していたのは、アメリカの伝統やスポーツ、上流階級のライフスタイルを反映したプレッピースタイルだった。カントリークラブやリゾートを連想させる服を、ブルックリンの若者たちは別の価値観で着こなした。
彼らにとってPoloは、単に品質の高い服ではなかった。富裕層のライフスタイルを思わせるブランドを身に着けることは、自分たちの存在や経済的な成功を誇示する手段にもなった。
ブランドが想定していた着用シーンとは異なる場所で、若者たちが独自の組み合わせやルールを作り上げていく。Lo Lifesの活動は、Poloがストリートファッションの中で特別な位置を占めるようになった背景の一つだ。
1990年代:ヴィンテージPoloがHIPHOPの象徴となった瞬間
Zhigge「Toss It Up」とStadium Collection(1992)
1990年代に入ると、Poloを着用するラッパーの姿がミュージックビデオにも登場するようになる。その初期の事例としてComplexが取り上げているのが、HIPHOPグループZhiggeの「Toss It Up」だ。
1994年の『Can It All Be So Simple』のビデオにおけるRaekwonの『Snow Beach』の登場シーンは、ラップビデオにおけるPoloの着用例としておそらく最も象徴的だが、それが最初ではなかった。その2年前にはZhiggeの『Toss It Up』があった。1992年の同ビデオで、メンバーは伝説的な『Stadium』や『CP-02』コレクションのアイテムを全身に着用している。これらのアイテムがコレクターの間で人気を集めるようになった経緯を示す事例だ。
1992年に登場した「Stadium Collection」は、1992年のバルセロナ五輪を意識し、1920〜30年代の陸上競技ユニフォームやオリンピックのポスターなどを着想源にしたコレクションだ。Polo Sportの立ち上げを象徴するラインでもある。
Zhiggeが「Toss It Up」のビデオでStadiumやCP-02のアイテムを着用したことは、当時のPoloとHIPHOPの接点を示す事例として興味深い。現在もヴィンテージ市場で人気を集めるアイテムが、当時のラップビデオに登場していた。
Raekwonの「Snow Beach」が残した強烈な印象
HIPHOPファッション史で特に知られるPoloの着用例が、Wu-Tang ClanのRaekwonによる「Snow Beach」プルオーバーだ。
1994年の「Can It All Be So Simple」のミュージックビデオで、Raekwonはイエローとネイビーを組み合わせたSnow Beachジャケットを着用している。このジャケットは、スノーボードをテーマにした1993年のコレクションに登場したものだ。
ブルックリンのLo Lifesらが育んできたPoloの着こなし文化は、Wu-Tang Clanのメンバーによる着用を通じて、より広いHIPHOPファンにも知られるようになった。Raekwonが着用したジャケットは、その後も復刻や関連商品の登場によって注目を集め、現在ではヴィンテージPoloを代表するアイテムの一つとなっている。
Tyson Beckfordの起用とPolo Sportの台頭
ストリートでPoloが支持を集めていた1990年代、ブランド側でも新たな動きがあった。モデルのTyson Beckfordが1993年にRalph Laurenと専属契約を結び、翌1994年にはPolo Sportの広告に登場した。
BeckfordはPolo Sportを代表するモデルの一人となり、ブランドの広告イメージを広げる存在となった。黒人男性モデルが同ブランドの広告で大きく起用された事例としても知られている。
Lo LifesがストリートでPoloを着こなし、Beckfordが公式広告でPolo Sportを体現する。両者は異なる立場から、1990年代のPoloを印象づけた。
2000年代:Kanye Westが見せた新しいPoloの着こなし
ピンクポロとポロベア――HIPHOPファッションの選択肢を広げたKanye West
2000年代初頭、HIPHOPのファッションではオーバーサイズのジャージやバギーデニムが広く支持されていた。そんな中、Kanye Westは異なるスタイルを見せた。
デビュー作『The College Dropout』の時期、Kanyeはピンクのポロシャツやストライプのラグビーシャツ、Polo Bearのニットセーターなどを着用していた。ゆったりとしたスポーツウェアとは異なる、プレッピーなアイテムを取り入れた着こなしは、当時のHIPHOPファッションに新しい選択肢を示した。
その着用スタイルを象徴するのが、2004年の「All Falls Down」のミュージックビデオだ。Kanyeが着用していたピンクのポロシャツは、映像の中でマスタードをこぼされる印象的な場面にも登場する。
このシャツは後にレプリカ商品まで作られた。
興味深い例が、ボストンを拠点とするクリエイターBanduluによるレプリカだ。2014年に報じられたこの商品は、Kanye Westが「All Falls Down」のビデオで着用したピンクのポロシャツを模したもので、価格は400ドル。マスタードの染みまで刺繍で再現していた。Kanyeの着用アイテムが、ファッションブランドによる商品化の対象にもなったことを示すエピソードだ。
「It Ain’t Ralph Though」――Kanye WestとRalph Lauren
Kanye WestのPoloへの愛着を語るうえで外せないのが、「It ain’t Ralph though」というフレーズだ。
2013年、ラジオ番組『Sway in the Morning』に出演したKanyeは、Sway Callowayが手掛けるアパレルブランドについて話す中で、「It ain’t Ralph though!(でも、Ralphには及ばないけどな)」と発言した。
この発言は、Ralph Laurenをファッションブランドの一つの基準として引き合いに出したものだった。インタビュー映像は後に広く共有され、フレーズもインターネット上で繰り返し引用されるようになった。
2014年、Ralph Lauren本人はこの発言についてインタビューで触れ、「So an adjective. It’s very Ralph.(形容詞になったんだね。とてもRalphらしい)」と笑いながら反応している。
そして2015年2月、Kanyeはニューヨーク・ファッション・ウィークで開催されたRalph Laurenのショーに出席。ショーの終了後には本人と握手を交わし、バックステージでも対面した。長年Poloへの愛着を公言してきたKanyeにとって、印象的な出来事となった。
コレクター文化と現代ストリートへの広がり
#PoloGate2014とJust Blaze
HIPHOPとPoloの関係は、ラッパーによる着用だけでなく、熱心なコレクターたちの活動にも表れている。その一人が、数々のHIPHOPクラシックを手掛けてきたプロデューサーのJust Blazeだ。
2014年3月、Polo Ralph Laurenのオンラインストアで「#PoloGate2014」と呼ばれる騒動が起きた。従業員向けの65%オフのプロモーションコードが誤って一般公開され、コードが広まったことでサイトにアクセスが集中。オンラインストアは一時的にダウンした。
Complexによると、Just Blazeはこの機会に割引対象商品を64点、合計5,000ドル以上購入した。商品の中にはシャンデリアのような高額アイテムも含まれていたという。漏洩したコードを使った注文の多くは後にキャンセルされたが、この出来事はPoloコレクターの間で今も知られている。
100万ドルのヴィンテージPoloコレクション
Poloの収集文化は、個人のコレクションや展示にも広がっている。
2017年、ヴィンテージPoloのコレクターであるEzra Wineは、1987年から1994年にかけてのアイテム100点で構成する「Million-Dollar Vintage Polo Collection」を100万ドルで売りに出した。
コレクションはニューヨークの224 Mulberry StreetにあるThe Fancyのギャラリースペースで展示された。Wineは長年にわたってPoloを収集し、Kanye WestやRaekwonらHIPHOPアーティストにもヴィンテージアイテムを提供してきた人物だ。
彼はVogueの取材で、コレクションのアイテムを美術館に収蔵されるべき作品だと語っている。Poloの古着が単なる中古衣料ではなく、ファッション史の一部として捉えられていたことが分かる。
Taz Arnoldによる再構築とPalaceとのコラボレーション
ヴィンテージPoloは、コレクターが保管するだけでなく、新たなデザインの素材としても使われてきた。
2011年、Poloコレクターとしても知られるTaz Arnoldは、Dr. Romanelliと協力し、「The Americans Tribute Collection」を制作した。自身のヴィンテージPoloコレクションをもとにした70ピースのカプセルコレクションで、既存のアイテムを組み合わせ、再構成する試みだった。当時はPoloのコレクターの間でも賛否が分かれたという。
さらに2018年には、Polo Ralph Laurenとロンドン発のスケートブランドPalace Skateboardsがコラボレーションを実施した。コーデュロイのダウンジャケットやパッチワークのラグビーセーターなどが登場し、Polo Bearがスケートボードに乗るデザインのセーターも話題を集めた。
プレッピーを軸にしてきたPoloが、スケートカルチャーを背景に持つPalaceと組んだことは、ブランドとストリートウェアの関係を考えるうえでも興味深い事例だ。
リリックにも登場するPolo
Poloはラッパーのファッションだけでなく、楽曲の歌詞にも登場する。
Kanye Westの楽曲「Mercy」では、客演した2 Chainzが次のようにラップしている。
原文(英語)
“Horsepower, horsepower / All this Polo on, I got horsepower.”
日本語訳
「馬力だ、馬力だぜ/これだけPoloを着ていれば、俺にも馬力がある」
Poloのロゴに描かれた馬と、自動車のエンジン出力を表す「horsepower」を掛け合わせた言葉遊びだ。Poloを着ていることを、車のパワーになぞらえて表現している。
まとめ――HIPHOPとPolo Ralph Laurenが築いてきた関係
Polo Ralph LaurenとHIPHOPの関係は、ブランド側のマーケティングだけでは説明できない。1980年代のブルックリンでLo LifesがPoloを独自のスタイルで着こなし、1990年代にはRaekwonらのミュージックビデオを通じて、その姿が広く知られるようになった。2000年代にはKanye WestがピンクのポロシャツやPolo Bearを取り入れ、さらにJust Blazeのようなコレクターがヴィンテージアイテムを集め続けてきた。
それぞれの時代で、Poloとの関わり方は異なる。盗み出して着る若者たち、ミュージックビデオで着用するラッパー、過去のアイテムを探し続けるコレクター。彼らの活動が積み重なり、Poloはプレッピーファッションの枠を越えて、HIPHOPの歴史を語るうえでも欠かせないブランドになった。
ブランドが作った服に、着る側が新しい意味を与える。PoloとHIPHOPの関係は、その過程を40年近くにわたって示している。
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Complex: Mike DeStefano, “25 Things to Know About Ralph Lauren, Polo, and the Designer’s Legacy”
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The Guardian: “Lo Life: celebrating the street crew who fell head over heels for Polo”
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The New Yorker: “How the Wu-Tang Clan Made a Ralph Lauren Jacket Famous”
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Ralph Lauren Official (RL Mag): “History in the Making” / “Made to Move”